薬屋のひとりごとの12巻を読みました。
著者は日向 夏さん、イラストレーターはしのとうこさん。
以下はネタバレを含む感想です。
あらすじ
玉鶯は、蝗害は異民族のせいで起きたと憤る民を鎮める名目で、砂欧に戦争を仕掛けようとしていた。壬氏は戦を避けようと頭を悩ませていたが、 玉鶯の暗殺という思わぬ形で戦を回避することになる。
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しかし、領主代行を失った西都の舵を取る者がいない。壬氏は、いやいやながら西都の政務を執ることになった。猫猫は、心身ともに疲弊する壬氏を気遣いながら、怪我人や病人を診る日々を送っていた。そんなある日、壬氏は、領主代行だった玉鶯の息子たちを、西都のために後継者として政治を教え、育成してほしいと頼まれる。しかし、玉鶯の長男・鴟梟はどうしようもない無頼漢であった。他の二人も後継者教育を受けたことなどないことがわかり、猫猫は頭を抱えてしまう。
だが、猫猫たちは否応なしに西都のお家騒動に巻き込まれてしまう。玉鶯の三人の息子たちを後継者として育成してほしいと頼まれたうえ、鴟梟の息子・玉隼は中央から来た猫猫たちを目の敵として邪魔をしてくる。誰が西都を継ぐのか……多くの思いが交錯する中、猫猫の元に事件が舞い込む。
玉鶯の孫たちの不仲。醸造所で起きた食中毒。謎の病を訴える異国の娘。そしていつも以上に不可解な行動をする雀。彼女の本当の目的とは一体何なのだろうか。そして、雀の本当の顔も明かされることになるのだが—。猫猫は無事、中央へと帰ることができるのだろうか。そして、壬氏との関係をはっきりさせる時が来るのだろうか。
感想
ついに猫猫が壬氏の気持ちに
この巻で語りたいことはたくさんありますが、それでもまずは「壬氏おめでとう」と言いたいです。言わせてください。
8巻で自ら焼き印をし、王位継承権を完全放棄するという全力で体を張ってまで、猫猫との関係を望んだ壬氏でした。当時はあのやきもきした二人の関係が大きく変わると、すごく盛り上がった記憶があります。
しかし、どこまでもクールな猫猫さんに壬氏さんの気持ちは正直響いておらず、結局その関係性に読者が望むレベルの変化は起こらず、話は進んでいました。そんな壬氏を不憫に思っていた読者はきっと私だけではないはず。
でも12巻でついに、猫猫のほうから壬氏に接吻を返すという明確な形で気持ちに応えましたね。
猫猫本人は、壬氏ほどの気持ちの熱さはなく、ぬるま湯程度の気持ちだと言っていますが、温度の違いはあれど、気持ちの方向性が重なって行動レベルにまでつながったのは本当に良かったです。
なので、とにもかくにもおめでとうございます。
雀さんの正体
この巻のもう1人の主人公はやっぱり妻の雀さんですね。猫猫、小紅とともに表紙を飾っています。
馬良の嫁として登場したものの、何かと謎の多かった雀さん。この巻でその正体が、国の諜報部隊の人間でかつ、玉鷲の種違いの娘であることが分かりました。
壬氏の指示で動いている側面が大きかったので、国に従う人間であることはわかっていましたが、その中でも精鋭、巳の一族の超エリートであることには驚きました。
馬良とは国に仕える一族同士の結婚ということで、馬と巳の政略結婚だったようですが、2人の関係そのものは本物だったようで、そこに嘘がなかったのは良かったです。
猫猫たちを守るため、片手を失うほどのケガを負ってしまった雀さんでしたが、一命をとりとめ猫猫たちとまた帰ることができて安心しました。
戌西州編が完結
10巻から始まった戌西州編がこの12巻をもって区切りとなりました。
10巻の発売日が2021年の1月だったので、リアルタイムとしては1年半、作中時間としても1年が経過する一大長編となりました。
猫猫と壬氏の関係の進展や、雀さんの正体、外国勢力の存在など、とても内容が充実したシリーズだったと思います。
また、このシリーズを通して改めて大きな存在だとわかったキャラがやぶ医者でしょうか。
1巻から登場しながら終始やぶ医者と呼ばれ、だいたいの人から空気的に扱われている存在ですよね。医官としては必要な技能を有しておらず、いつもまったりとおやつを食べている人です。しかし、そんなやぶ医者の空気がシリアスになりがちな「薬屋のひとりごと」の世界をどこか温かくしてくれることを、今回再認識できました。
あらたなキャラが出てきたり、関係性が変わったりしても彼がいればきっとまたゆっくりお茶が飲めると思わせてくれますね。
今後もやぶ医者はやぶ医者として、猫猫たちのそばにいてあげて欲しいです。
そして、今回でずいぶんと猫猫の悪影響もとい英才教育を受けてたくましくなってしまった小紅については、またどこかで出番が欲しいです。
なお、ついぞ名前が明かされることなく、帰りの船にも忘れられてしまってどこまでも不憫な羅半兄もいつかどこかで消息がわかると良いですね。
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